夏目漱石の草枕にあるように、「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高こうじると、安い所へ引き越したくなる。」
住みにくいと思いつつも、今度の連休まで旅行はガマンと、生活を送っている方が大半だろう。
タイトルの「ひとり旅に出るなら持っていたい本」というのは、僕の現実逃避の理想がそのままに現れていると言っていい。今の生活に翻弄されつつ、自分で選んだ生活だから、と堂々巡りに囚われているわけだ。
本題に戻ると、「自分の中に毒を持て〜あなたは“常識人間”を捨てられるか」岡本太郎 著
この本を持ってひとり旅に出たい。
はじめの動機が「現実逃避」だったとしても、旅から帰るときには、すこしでも変化を持って日常へと戻りたいからだ。
この本を1番繰り返し繰り返し読んだのは、ちょうど10年前、単身でオーストラリアに渡ったときだ。最初の数ヶ月こそ知り合いの日本人に助けてもらったが、その後は単身、知らない土地で生きた。東海岸を北上していた時は計画性というものはなく、せいぜい3日のことしか考えられなかった。インターネットも今ほど発達していなかったため、町にいる間に時間制のネットカフェのようなところで情報を集め、その後は地図と町で仕入れた情報のみを頼りにして旅を続けた。
日本の面積と比べると何倍もあるオーストラリア。町から町の移動時間も10何時間と、日本の感覚でいるとケタが違う。
そんなときよくこの本をひらいた。
この本は、「瞬間瞬間を生きろ」と、繰り返し繰り返しメッセージを発してくる。
無計画に旅を続けたものだから、すべて目の前に現れたときに即座に決断しなくてはならなかった。そういう環境が日常であったから、岡本太郎のずんぐりまなこの写真がカバーのこの本は、迷った時、恐ろしい時、いつも勇気を与えてくれた。岡本太郎が亡くなる三年前に書かれたというこの本には、岡本太郎の哲学や、知恵が随所に盛り込まれていると思う。
この本は、メッセージが強烈過ぎて新しい環境へ踏み出す一歩のきっかけにはならないかもしれない。
けれども、幸いにも、すでに踏み出してしまった人の心の支えには必ずなると思う。
よく、無人島に一冊本を持っていくなら、、とか、悩んだ時によむべき本、などでリスト化されるけれども、人生生きているだけで悩みだらけだし、迷いっぱなし。そういうことを考えたら、身を削るような環境でなくても、いつでも持っていたい本、ということになるのだろうな。この本は。
そして草枕にもどる、
「どこへ越しても住みにくいと悟とった時、詩が生れて、画が出来る。」 昔から、そういうふうに出来ているんだろうな。と感じる一文です。
まだ手にしたことがない方は是非読んでみて下さい。
なお、アイキャッチ画像のブックカバーは自作のもの。「塩昆布 こうはら本店養宜館」の包み紙。
Text : 小佐直寛(Naohiro Kosa)
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