Memories in Australia.[iv-v]

21:25

ブリスベン空港に戻ると、思っていたよりも人はまばらだった。さほど気にもとめず、夜を過ごせそうな場所を探す。少しでも快適に眠れそうな場所‥待合ロビーがすぐに浮かんだ。ソファであればなお、ありがたいのだが。マップを確認し、二階に上がった。広々とした到着ロビーがあった。プラスチックの椅子が連なって配置されており、球場のスタンドのようだ。待合客はほとんどいない。

ここなら外の寒さも凌ぐことができる。ソファではなかったものの、まあまあ快適に過ごすことができるだろう。肩から、荷物を降ろす。普段持ち歩いている荷物は、バックパックとギターケースだけだ。スーツケースをもっている時期もあったが、シドニーにいる間に売ってしまった。

スーツケースを転がして歩く姿は、いかにも旅行客といった感じで理想と違ったし、実際にはそんなに荷物もなかったのでバックパックで十分だったのだ。タオル、T-shits、下着、パスポートに貴重品、それからノートとペン。基本のグッズといえば、せいぜい、こういうものだ。

オーストラリアに来てから買ったCDや本、それから近しくなった人からもらった手紙やプレゼントは、冬の洋服と一緒に日本へ送っていた。これまでにも数回、そうして荷物を発送している。これは、自分の身軽さをキープする秘訣だ。私物は、思い出を、言うなれば記憶のトリガーとして保有している。ひと月二月、同じ拠点で生活していると、顔なじみができる。その場所から別の場所へ移動をすることになれば、簡単なサヨナラパーティが開かれる。手紙や、写真、思い出が、増える。

もらった手紙。記念の品。もちろん大切に持ち歩きたい気持ちもある。

けれど、僕は、ここに、なにをしにきたのだ?
日常に甘んじることなく、挑戦するのだ。

ビビっても、目の前の環境へ身を投じるんだ。自分を甘やかしてはいけない。ここは、一(いち)から始められる稀有な環境で、ましてや僕は、正真正銘の『なに者でもない』存在なのだ。さらに、1年という有効期間までついている。それは、1年経てば安全で安心な日本へ帰ることになるということなのだ。始まった時から、そういう約束なのだ。こんな機会はそうそう無いんだから、積極的に、タフに生活したいのだ、俺は。

夜10時、バックパックを枕にして、待合ロビーのプラスチック椅子に横になった。天井照明が、煌々と明るい。タオルケットを顔にかけて、光を遮断した。今日はとにかく、つかれた。ポケットの所持金を思い、次の目的地である乗馬ファームへの経路や移動の方法について頭をよぎった。考えるべきことはたくさんあったが、眠ってしまう方がいくらか早かった。


掲載順:[序〜Ⅳ〜V]

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