Memories in Australia.[iv-vii]

ブリスベン国際空港からずっと歩き続けた足は、立ち止まってなお、動いているような錯覚に陥るほどだった。時刻はすでにAM2時に向かっている。目の前に噴水が見えた。こんな夜中に、誰が見るというのだろう。水面近くから吹き出す水がわずかな照明でライトアップされ、周期的に作り出される水の造形を揺らしている。

噴水の円周を形成している構造物は、かなり大きく、ゆうに30mはありそうだ。やけに立派な噴水に感嘆しつつ、外周をぐるりと回り、道路からいちばん反対の場所に腰を下ろした。かなり遠くで自動車が走る音がする。見えるものは何もない。暗闇と、オレンジ色の街灯と、噴水自体を照らしているわずかな光、それだけ。ミネラルウォーターを口に含み、煙草に火をつけた。目をつむると、どくどくと脈打つ心臓の音が聞こえる。

僕はこれからどこへ行こうとしているのか。そもそも、ここはどこなのか。ギターケースを握り続けた手がこわばっている。背中にかいた汗が冷えて寒さを感じる。身体的状況を考えても、今はあまり良い状態とは言えない。

腰かけている噴水の構造物は、凹凸のある小さなレンガが敷き詰められており、さらに横になるには幅が狭すぎた。尻の落ち着く場所を探して座り直し、足を組み、猫背になり、寒さから身を守った。もういちど目をつむり、努めて楽しいことを考えようとし始めたとき、幹線道路の方で誰かの話し声がした。

体をひねって、声のほうを覗き見た。幹線道路のオレンジ色の照明に照らされた人物は、二人。空港とは反対の方向から歩いてやって来たようだ。

こんな時間に?酔っ払いだろうか?そのまま通り過ぎるのだろうと思った。しかし、二人は足を止め、がやがやと騒いでいた声は、ひそやかになり、なにか会話をしているようだ。もしかして、こちらに気づいていて、そして、足を止めたのだろうか。

僕は目を逸らすことができず、オレンジ色の光に照らされ揺れている二人の人物を凝視していた。

掲載順:[序〜Ⅳ〜V]

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