Memories in Australia.[iv-viii]

この場所が、誰もいない真夜中の噴水公園でなければ、ここまで恐怖心を煽ることはなかったのかもしれない。正面にいる二人はなぜ、ここで立ち止まったのか?

幹線道路の照明を背に受けた二人は逆光となっていて、こちらから相手の表情はまったくわからない。しかし、こちらを伺い見るような動きから、彼らが僕の方を見てなにか話をしているのは疑いようないことだった。

じわりと嫌な感じがした。彼らとの距離は、噴水を挟んで40m程度。僕は、飲んでいたミネラルウォーターをリュックにしまった。相手の出方次第では、ここから逃げ出す必要があるだろう。万が一に備えて、いつでも動ける態勢をとった。

先ほどまで向き合って話していた二人が、ゆっくりと歩きはじめた。こちらへ向かってくるようだ。僕は、ギターケースの持ち手を握り直す。ギターは僕にとって数少ない財産だ。なんとか守りたい。彼らが噴水の手前まで来た時に、噴水の照明に照らされて、ぼんやりとだが人相が分かった。20代か、少し年上くらいの白人系とヒスパニック系の若者だった。表情までは認識できない。彼らとの直線距離、約30m。

二人は噴水の外周に沿って、二手に分かれた。それを見て、はっきりと身の危険を感じた。このまま座っていては、二人に挟まれるのは明白だ。僕は立ち上がり、まっすぐ正面の森の方へ歩き出した。おそるおそる後ろを振り返ると、こっちへ向かってくるではないか。ふたりは何か言っている!

駆けた、駆けた。ひたすらに。恐怖で、声も出なかった。

森の中をほとんどギターを抱く格好で疾走しながら、今いる場所が公園のようになっていて、林の中の散歩道になっていることを理解した。時折、眼前の背の高い木々の間から高層ビルの放つ光が見え隠れしている。この道は、必ず何処かに繋がる。その確信だけを頼りにして、走り続けた。息が苦しい。これは夢なのか。いいや、現実だ。いまは絶対に止まってはいけない。僕は走り続け、ついに林を抜けた。

掲載順:[序〜Ⅳ〜V]

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