MiA V-Ⅶ

City Centre Backpackers

僕は「I’m not sure.(よく分かりません)でも、2か月は働きたいと思っています。」と答えた。おまえさん、セカンドビザを取得したいのか?という話の前に、今夜泊まるための部屋はあるのか、ということが僕は知りたかったのだけれど、せっかちなオーナーのようなのだった。オーナーは、満足とも不満とも言えない顔で、鼻を鳴らした。しばし、沈黙。「ところで…部屋はあります?」ついて来いと言わんばかりに、オーナーが二階へ案内する。やけに立派なバロック調の手すりが付いた階段を昇る。床・壁・天井、それらすべては質素でお粗末なものだったので、階段だけが異様な存在として際立っていた。僕は、さっきオフィスで話したやり取りは、簡単な面接だったのかもしれない、と思い当たる。案内された部屋は、二階の踊り場を、右に行ったところの右側、3段ベッドが2つある六人部屋のドミトリーだった。3段ベッドの真ん中(二段目)を指さされ、ここを使えという。ほかの5つのベッドにはそれぞれ荷物が置かれていて、一見すると住んで一日二日ではない生活感を感じたが、このとき部屋には誰もいなかった。ギターケースとバックパックをベッドに降ろすと、オーナーが付いてこい、と手招きした。部屋を出てさらに右へ進んだ突き当りに、シャワールームがあった。二つのドアがある。男女の別はないようだった。そしてさっきの階段を降りる。共同キッチン、TVルーム、そして勝手口を出た先の中庭。そして、ロビーに戻ってきた。「仕事は、毎日16時~18時の間にここで告知する。仕事が欲しい時にここへ来い。」宿泊費は前払いで、一日27ドル。まとめて払ってもいい、と言われたが、手持ちがないことを伝えると、それなら一日分の金で良いと言う。僕から金を受け取ると、「今日の夕方、ロビーに来い。遅れるなよ。」と釘を刺し、オフィスへ戻っていった。また、「I’m not sure.」という言葉を使ってしまった。外国では、日本人が良く使うとされる「Maybe」も良く思われない。メイビーをよく使うと、はっきりしない奴だ、と思われる。若いからといって自分の考えを持たないことはよくない、という文化が根付いているのだ。分からない、知りません、たぶん…。この辺の言葉は使わないでいいようにしておきたい。

部屋に戻る前に、中庭で煙草を吸った。夕方までにシャワーに入っておこう。飲み物も無さそうなので、表の商店で、スポーツドリンクくらい買っておいたほうがよさそうだ。中庭を歩いてみると、外階段が見つかった。興味本位で登ってみると、二階のシャワールームの横に繋がっている。この階段は使えそうだ。部屋に戻ると、住人が戻っていた。向かいのベッドの3段目が彼の居場所らしい。MacBookProをひらきiTunesで音楽を聴いていた。(2007年にMacBookProは高価だったからバックパッカーに似つかわしくないなと思ったことをよく覚えている)彼は、韓国人だった。僕が、「よろしく。今日からこの部屋に住むよ。」というと、おまえ名前は?で、どこから来た?日本人か?おまえの持ってる、それってギター?おまえ何才?と矢継ぎ早に質問を受けた。圧倒された僕は、日本の…京都というところで、俺は22才。と、カタコトと話した。「そうかそうかー!」と上機嫌に笑うので、悪いやつではないんだな、と思う。名前はスンだと言った。スンがベッドにいながら煙草に火をつけたので、つい外に誘った。慣れた様子で三段目から降りてくると、シャワールームの横の外階段へと歩いていった。あとで入ろうと思っていたシャワールームは、すでに二つとも使用中のサインになっている。夕方は順番が埋まるから、時間をずらしていったほうがいいぜ、と言った。スンは、ここで暮らし始めて2か月半ほどらしい。スンがここに慣れた風に見えたのは、本当に慣れていたからなのだ。いつまでいるつもりか訊くと、あと一か月くらい、と答えた。セカンド(ワーキングホリデー)ビザを取得するつもりらしい。「へえ、じゃあオーストラリアに長くいられるね。どこか行きたい先があるの?」「いや、一年で韓国に帰る。88日間の就労証明書は、セカンド・ビザを欲しがってるやつに売るの」「そんなのありなんだ?」「ありあり。とはいっても内緒でね。韓国は国民の義務で、徴兵制度があるのね。べつに戦地に行くわけじゃないけど、2年ちょっとは、訓練部隊に入らなくちゃいけないからさ。だから、みんな徴兵される前にワーホリに来て、外貨を持って帰るの。いまは韓国ウォンは安いから、外貨を持って帰ると韓国では金持ちでしょ。それが目的だよ。」スン、割り切ってるなあ、君は。彼のいう就労証明の転売の話は信憑性に欠けるな。と思ったけれど、徴兵義務の話は驚きだった。シドニーでは、羽目を外している韓国男子をたくさん見てきた。そんな背景を知ると、その理由がすこし分かった気がする。

2021 Memories in Australia. (c)Naohiro Kosa
#ストーリーテリング

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