MIA V – Ⅶ②

City Centre Backpackers

スンと話していた外階段は心地の良い場所だった。周辺は高い建物がなく、よく風が抜けた。外階段から、ぐるっと回って、バーボン・ストリートへと出てみることにする。後で行こうと思っていた商店には、”Hungry Tum”というネオンサインが付いている。ハングリー・タムは、宿泊している宿、CityCentreBackpackersの一階部分に入っている、小さな商店だ。

食料品の商品棚には、マカロニ入りの即席スープやポテトチップスなど、日持ちするものが少量ずつ陳列されている。コカ・コーラやスポーツドリンクといった飲料、それから、カウンターで注文するバーガーやチキンを中心としたホット・スナックがメインの店のようだった。日本のコンビニエンスストアのように、新鮮なサラダや総菜パン、ましてや「お弁当」といったものは置いていない。カウンターの後ろに、ボックスタイプの煙草と何本かの葉巻も置いてあった。手持ちのお金で、ゲータレードと煙草を買う。ついにのこりは20ドルを切りそうだ。お金を払いながら、店内にATMがあることを確認しておく。営業時間は24時間となっている。ここには、しばらく世話になるだろう。店内をもう一度よく回り、手に入れることが出来るものを確認してから、店を出た。

シティ・センター・バックパッカーへ戻ると、ロビーは人が集まっていた。ひと際背の高い、この宿のオーナーを中心にして、円形に人だかりが出来ている。ざっと、30人はいるだろうか。かなりの人数が集まっているように見える。このときオーナーが言っていた「あとでロビーに来い。仕事を紹介する。」という意味が分かった。オーナーが腕時計を見て、16時を過ぎたとき、「みんな!いいか?これから、明日の仕事を紹介するからよく聞けよ。仕事が欲しい奴はしっかり発言してくれ。」僕を含めてワーカーたちはにわかに静まり返った。「〇〇農場で野菜のピッキングをする者」あちこちで、「私がやる!」「俺も!」と挙手が始まる。事態がまだ飲み込めていない僕は、その雰囲気に圧倒され何もできずにいた。仕事をもらうってこういうことか。Noosaheadsで出会ったトウジに言われたことをおもいだしていた。「なんにせよ、仕事が欲しいなら、周りに負けないようにね。」彼がそう言っていた意味がわかった。挙手してアピールしているワーカーの中から、オーナーが指をさして、指名している。おまえとお前、それから、そこの君。オーナーが「Next is..」と手元の紙を見ている。次こそ、必ず仕事をゲットする。何とかして現金を手に入れないと、また野宿をすることになる。いまは仕事の内容を選んでいる余裕はない、手持ちが20ドルを切りそうなのだ。オーナーが次の仕事を発表した。挙手とアピールが始まる。僕はここでも、仕事に指名してもらえなかった。仕事を得た者は、詳細を聞くために別の場所に集まっている。そのため、だんだんと人だかりは小さくなっていく。不安と緊張感で喉がカラカラになってきた。あと、どのくらい仕事は残っているのか?それを知らされていないから尚更に不安だった。オーナーが次の仕事内容を告知する。何と言ったか聞くこともなく、僕は猛烈にアピールする。オーナーと目が合う。そして、オーナーに指名を受けた。

仕事の説明を受け、明日は朝5時にロビーに集合するように言われグループは解散した。ワーカーたちはすでに思い思いに過ごしており、その雰囲気は学校か、あるいは修学旅行の宿泊先のようだった。僕は、ようやく居場所が定まったような気がしていた。日本にいた時は仕事や学校に行かなくてはいけないことに対して、憂鬱になることもあった。明確な明日の予定を持っていることは、自分自身を束縛されること。そう思っていた。たしかにそうだろう。けれど、その明日はきっと誰かと過ごす一日になる。今は、明日を過ごすのは自分一人ではない、ということが、ただ嬉しかった。腹の方からふつふつと湧いてくる安堵感。ベッドと、風呂と、そして同じ環境のなかで労働を共にする仲間の存在。見える世界がすこしだけ優しく変わったようだった。

2021 Memories in Australia. (c)Naohiro Kosa
#ストーリーテリング

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