埼玉県ふじみ野市に工房を構える「小塚工房」さんにお話を伺っています。
【なお、本インタビュー記事は、「前編」と「後編」に分けて掲載しています。後編では、截金(きりかね)・彩色師の小塚桃恵さんについて、また、前編では、仏師の小塚友彦さんについて、ご紹介させていただいています。】
”昔から何かを創作することが好きで、漠然と何らかのプロフェッショナルになりたいな、とは思ってました。ですが、まさか仏像の仕事をするようになるとは思ってもみませんでした。”
不思議と導かれて、与えられたものを一生懸命にこなしていたら、いつのまにか私にはこれしかない!と腹をくくるところまでやって来ました。仏さまなのか、はたまたご先祖さまなのか、こっちだよーと言って引いてくださる手の存在をいつも感じています。
後編では、截金(きりかね)・彩色師の小塚桃恵さんのお話を掲載します。現在の職業に至るまでのこと。子育て・家事についてのお話。それに、2020年に本格的にスタートされた、アクセサリーブランド「KIRIKANE」について、たっぷりお話を伺いました。それでは、どうぞ。
HUMM magazine(以下、HU)
あらためて、今回はインタビューに応じていただきありがとうございます。冒頭にご紹介した小塚桃恵さんのメッセージに、グッと来ました。若い人だけに限らず、「何ものかになりたい」と願っていても、見つけかたのわからない人がたくさんいると思います。これだけ情報の多い時代なのに、自分の事となると、てんでわからない。
表面化しにくい問題のため、見ようとしないと見えない問題だと感じます。桃恵さんは、どうやって今の気持ちを手に入れてこられたのでしょうか?
小塚桃恵(以下、モモ)
こうした専門職についてるということは、もともとそこに向かって強い気持ちがあって、それを実現するために必要なものをつかみ取ってきた、というような印象を持たれるかもしれません。けれど、そんなことは全くなく、どちらかというと残されたものを拾い集めてきたような感覚なんです。というのも、私は高校生の時に学校へ行けなくなり、卒業してからもしばらくは家に引きこもっていました。もうこのまま一生家から出られずに、社会とも、人とも関われないんじゃないかと思って絶望しました。しばらくはそんな生活を続けていましたが、ある時、人並みに会社に勤めることはできなくても、人とあまり関わらなくてすむ(当時はそういうイメージでした)職人の仕事ならば、手を動かすことも好きだし私にできるかもしれない、と思い専門技術を学べる京都へ行ったことが、この道を進むきっかけでした。
いま、世のなかには情報が限りなく溢れ、あちらこちらに憧れの対象が散らばっています。昔と比べて、仕事とやりがいを同時につかめるほど、生活は豊かになり仕事の選択肢も増えました。そんな様々な道筋のなかから、自分の向き不向きと照らし合わせて取捨選択するのは難しいことだと思います。
その点では、私の場合は初めからそれらの選択肢が限られていたからこそ、私に“できること”、そのなかでも、特に“やりたいこと”がクリアに見えていたのかもしれません。
(HU)そうでしたか。幸か不幸か、若い時にそういう経験をする人ばかりではありませんよね。そういった絶望の中にいるときには、辛いばかりでとても苦しいときだったと想像します。
(モモ)自分には何もできない、と思い詰めた経験があったからこそ、ここまでの道のりのなかで、やりがいや喜びを感じやすかった。あるいは、これを仕事にできなかったら終わり、という恐怖のもと(笑)続けてこれた、といってもいいかもしれない。
(HU)どこまでいっても、自分からは逃げられませんものね。たとえ人に何を言われても、また、どんな環境でも手放さずにやり続けることが大切だと改めて感じます。好きという気持ちはやはり強いです。その経験があったからこそ築いてこれた現在は、とても大切なものですね。
(モモ)その結果、とても幸せなことに私は今の仕事が大好きですし、過去のことは全て、自分にとって必要なことだったんだと気がつきました。ほんとうにありがたいことです。
(HU)いま取り組んでいることが、どのように後々に繋がっていくのか、というのは誰にも予想ができません。桃恵さんのように自分を見つめて、その方向へ舵を進める。桃恵さんのお話を聞いていると、目の前のことに精一杯取り組んでいくことの重要性をあらためて感じます。
ところで、僕たちの年代だと、小さな子供が中心の生活をしている家庭が多いと思います。我が家も例外ではありませんが、小さな子供を育てながら制作を続けていくことは、時に苦労を伴うことだと思います。子どもを育てながら働くことについて、工夫しているところをおしえてもらえますか。
(モモ)家事も子育てもそうですが、家庭内での役割分担って難しいですよね。 仕事においては、細かい振り分けが大切だとわかるんですけど、家庭内のこととなると、愛情や気遣いといった気持ちの部分に、なんとなく頼ることが多い気がします。
私たちは、普段から一緒に仕事をしているということも大きいですが、自然とお互いの弱点をカバーしあえているのではないかと思います。
例えば、子供の細々したケア。お風呂や着替え、薬を塗ったり、歯磨きをするのは、だいたい夫がしてくれます。 私はその間、食事をつくったり、食器を洗ったり、掃除や洗濯をしたり。 はっきりと分担しているわけではなく、逆をすることもありますが、大抵はこんな感じです。“得意、または、苦でない”と思えるかどうか、です。
私は想定外のトラブルに対処するのが苦手で、どちらかといえば決められたタスクをこなす方が得意だし、好きです。 逆に、夫は私よりもゆったりと構えているので、ちょっとしたことで動揺することもありません。なので想定外の連続である子供との衝突も少ないです。ただ家事に関していうと、ちょっと雑(笑)
そうやって、お互いに向き不向きを把握してサポートしあえば、家事や育児も効率よくこなせて、寝る前や保育園に行く前にも家族3人で遊ぶ時間が確保できます。はっきりと分けるというよりは、お互いに担っていることをふんわり認識しておくこと、そしてそれが大変そうだったら、その時々で交代すること、これが暗黙のルールとしてあると思います。
(HU)ありがとうございます。我が家も、よく話し合いたいとおもいます!
(HU)さて、2020年にスタートされた『KIRIKANE』のアクセサリー、いつもInstagramで拝見しています。以前製作されていたアクセサリーからより一層、気品が高く、美しい佇まいを感じます。『KIRIKANE』のコンセプトを教えてください。
(モモ)KIRIKANEのコンセプトは「見る、から手に触れる伝統工芸へ」です。特徴的なのは、飛鳥時代から続く『截金“きりかね”』という伝統技法を使用していることにあります。
截金は、焼き合わせ厚みを持たせた金箔を、細い直線状や◯△◇などの形に切り分け文様を施します。
その繊細さから、本来は鑑賞対象であった截金ですが、耐久性を上げる独自の技法、“漆截金”によりアクセサリーへと生まれ変わりました。
歴史を紐解くと、その昔縄文の時代にも装身具はありました。呪術的な要素も強い一方で、人とは違う個性を見いだすものとして根付いていた文化でもあったのではないかと考えています。
『特別な表現』『人とは違うなにか』。それは、自が他を意識し始めた遠い昔から現代にいたるまで、変わらぬ欲求として私たちが抱えているものです。身につけるだけで、世界が変わるようなワクワクした気持ち。自分のアイデンティティーに深く触れたような瞬間。私にもありました。そういうものを作りたいと願っています。
(HU)物語とともにアクセサリーを身に纏うことはとても素敵だと思います。KIRIKANEのアクセサリーには、世代を超えて愛される美しさを感じています。これからも応援しています!
今回のインタビューを通して、僕自身も自分自身を見つめ直すきっかけをもらいました。小塚工房のお二人、さまざまなお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
※本インタビュー記事は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、主にオンラインでの電話/メールを通じて行いました。幾度かにわたるやり取りの中で語ってくださった発言をインタビュー記事として再編したものです。
小塚工房プロフィール
2014年に京仏師のもとから独立して、京都で作家活動を始める。2015年埼玉県熊谷市で仏師小塚友彦、截金・彩色師小塚桃恵として小塚工房を設立する。2020年埼玉県ふじみ野市に工房を移す。関東の寺院を中心に仏像の製作、修復を手掛ける傍ら、三年連続でニコニコ超会議に出演。二日間の仏像彫刻定点生放送を通じて仏像の魅力を発信している。また日本における仏教の再発見の場を創る、超宗派の寺社フェス「向源」にも参加している。
小塚友彦(こづかともひこ)
1984年 愛知県生まれ
2011年 京都伝統工芸大学校卒
同年京仏師に弟子入り
2014年 独立、小塚工房設立(現在までに寺院様、個人様の仏像の製作、修復を多数手掛ける)
小塚桃恵(こづかももえ)
1987年 埼玉県生まれ
2011年 京都伝統工芸大学校卒
2014年 独立、小塚工房設立
2020年 截金(きりかね)の技法を生かしたアクセサリーブランド《KIRIKANE》をスタートする
イベント出演経歴
2015年 「天祭108」
2018年 「寺社フェス向源」「 ニコニコ超会議」
2019年 「寺社フェス向源」「 ニコニコ超会議」
2020年 「ニコニコ超ネット会議」
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▲小塚工房(工房への連絡先)
〒356-0043 埼玉県ふじみ野市緑が丘
月~金 open9:00~close18:00 土日定休
Tel / 080-1466-1265
Mail/ kozukakoubou048gmail.com
(※工房へお越しの際には、事前のご予約をお願いします。仏像修復・製造に関するご相談、また工房での取材をお受けしております。ただし、アポイント無しでのご訪問および一般見学はご遠慮いただいておりますので、あらかじめご了承ください。)