10代からアーティストを志望し、活動を続けている者にとって制作活動を続けていく上で、大きな岐路になる時期が少なくとも3つあります。
①学校(大学または高校)を卒業した時
②就職して新しい生活になった時
③結婚し子供を育て始めた時
この時期を境に、制作活動をフェードアウトしてしまうアーティスト志望の若者が多くいることはよく知られている事実です。
制作活動を長く続ければ続けるほど増えるのは、紛れもなく「不安」です。そして、それは思考を支配する重荷になります。
どうすれば、思っているように表現できるのか?
世間から、自分が評価されるのはいつか?
なぜ、あの人はうまくいっているのか?
お金の問題はどうすればいいのか?
彼女の両親に挨拶に行く時、どう自己紹介すれば良いのか。
など。このような不安と対峙した時に、世間一般の価値観を優先した方が生きやすいことは紛れも無い事実です。制作者のマインドを持ち続け、制作を継続させることは時に難しいこともあります。
変わり続ける環境で制作をやめないでいることは簡単ではありません
私は現在、3番目にあたります。つまり学校を卒業し、就職をし、子供を育てています。
在学中は浴びて余るほどの時間があったため、物を考え、制作する十分な時間を確保できました。真夜中に思いついたアイデアを夜通し試し、気がつけば昼。という時間の使い方もできました。しかし、残念ながら就職するとそうはいかず、仕事の都合で出社すべき時間が決まるため、逆算すると睡眠時間の確保のために早々にベッドに入ることになります。
二十代半ばの私は、本当はしたいことがあるのに、日中から会社の仕事をしていることが不満でなりませんでした。ましてや、残業をしなくてはならない場合などは気が狂うほど。
しかし、今なら二十代半ばの自分自身に言えることがあります。それは、
1.「時間の使い方」を考えること
例えば、あなたが私と同じように会社員で妻と子供がいる環境にあるとしましょう。
まず大前提として、月の休みが5日以下、朝から出社して就業時間が毎日21時を超える場合は除きます。そんな会社にいては制作うんぬんの話ではありません。それ以前に家庭の危機だと思います。
ここで想定するのは、一般的な会社員の働き方である朝出社し夕方〜夜に帰宅する生活。仕事を終え、帰宅した後は家族が起きている時間に晩ご飯を食べる。そして風呂に入り、布団で眠る。
人間は、悪いことに比べて良いことをより覚えているものです。過去にうまくいった制作の過程、環境、習慣を甘い思い出として覚えています。その結果、使い古された手法でアイデアが反応を返さないことにも気がつかないほどです。
家庭を持つようになると、わが身ひとつの面倒を見ていればよかった独身時代とは比べられないくらい、日々は濃厚にあっさりと過ぎていきます。仕事に使う時間、家族と過ごす時間、子供との時間、睡眠時間。これらで一日の大半は使ってしまいます。「時間は有限である」ことは揺るぎ無く、一日が24時間である事は週知の事実です。そうであれば、有効に使う工夫を凝らすしかないのです。
朝の時間を有効に使う
よく言われている「朝活」です。ただし私の場合は、苦肉の策で「朝活」を取り入れました。家族と子育てを大事にしたいため、仕事から帰ってくると家庭での役割が待っています。よほど遅くならない限り、家族と一緒に(または、家族の起きている部屋で)晩御飯を食べ、皿を洗い、子供とお風呂に入ります。遅くとも子供を21時台には寝かせたいので、子供と一緒に布団に入ります。7時間程度の睡眠をとればスッキリしますので、通常4時〜5時に目覚めます。
子供と一緒に早く寝てしまった方が良い理由
私はもともと完全な夜型人間でした。この朝活は苦肉の策ですが、結果的に良い効果を出しています。夜中の制作のために、なかなか寝ない子供を寝かせるよりも、仕事で疲れた頭で制作するよりも、夜中の制作で朝起きる時間を気にするよりも、子供と一緒に早く寝てしまった方が良い理由があります。
安定して自分だけの時間が持てること
明け方の3時〜4時は、家族はぐっすりと寝ている上に世間も静かな時間なため、7時半の出勤までの時間をアイデアをまとめたり、制作する時間に充てるのに適しています。
朝一番のリフレッシュした脳で作業できる
人間は睡眠をとることで脳を休ませています。仕事と家庭のことでフル回転した脳は早めに寝ることでしっかりと休ませ、制作だけのことを考えられるフレッシュな脳で作業できます。
2.制作のために「自分で選んだ定職」を持つ
何が役に立って、何が役に立たないかは実際にやってみて身につけないと判断できないものです。卒業が近づいてきたり、フリーターとしての生活が二十代も半ばにさしかかると「就職」ということが気になってきます。周りの知り合いとの経済的な差が顕著になったり、付き合っている彼女がいれば尚更です。その時、頭の中での会社員のイメージや、自分への過小評価などが邪魔をして、「就職活動」に対して腰が重くなりがちです。
一般的な社会人になるのは不安ですよね。でも大丈夫です。仕事をするのに、自分の興味の十分の一でもあれば、充分な動機になりえます。仕事をする目的は、「定期収入を得ること」です。はじめは、それ以上でもそれ以下でもある必要がありません。アーティストを志している人は、生活の中で、常に自分に挑戦しています。それゆえ、仕事として何かの職業に就くことは、その分野で自分のスキルが人並み以上になくてはならないのではないか?などと、ハードルを上げてしまいがちです。
一般的な仕事は、最初からそういう人を求めているわけではありません。周りの関係する人の話が聞けて、成長しようという気持ちがあれば、どこであってもやっていけます。
経済的な余裕は、心の余裕につながります。定期的な収入を得るために「自分で選んだ仕事」に就きましょう。時間はないからこそ価値が輝くものです。
3.「オウンドメディアを持つ」
オウンドメディアを持つということは、必ず強みになります。FacebookやTwitterと違い、ブログやホームページなどのオウンドメディアを持つことは、ストック型のメディアなため検索で引っかかる可能性が増えるからです。
ストイックに制作だけに集中することは理想的ですが、現実的に必ずしもそううまくいかないこともあります。メインとなる作品のことだけでなく、自分のアンテナに引っかかった色々なことを文章化してブログで発信することは少しの気晴らしになるかもしれません。
それに、その記事をきっかけにしてあなたのことを知る人が出てきたり、あなたらしさを形作っているものを間接的に表明できるかもしれません。
また、作品の出来具合について、自分がどこまで出来るようになったのかを図るためにも、オウンメディアを通じて世界に問いかけてみるのも良い方法です。
また、ブログに広告を載せることで収益化が図れる可能性があります。作品(アウトプット)だけで生計を立てていくことが難しい時期などは、インプットしたことをブログにして自分のセンスを売ることもできるのです。
三つのアイデアをご紹介しました。けれども、これらは僕の経験でしかありません。
悩んだり行き詰まったりした時は、できることから、アイデアを始めてみましょう。凝り固まっていた自分の価値観に新しいアイデアが芽生えるかもしれません。大切なのは、制作を続けていくためにはどうすれば良いか考えることです。
Image : Pexels
Text : 小佐直寛(Naohiro Kosa)